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Fig.3 Non-exceedance probability of wave height

大規模離岸堤を2基設置した場合も、人工島背後には静穏域が広く形成されるのがわかる。表−2に示す通り、人工島のみを設置した場合でも、波高比0.2以下の静穏域が背後域の面積の約80%を占める。
図−3は、鹿島港(水深23.4m)、東京湾口の浜金谷(水深22m)および東京湾内の第二海屋(水深16.5m)の波高の未超過出現頻度を示している(永井ら、1993a、1993b)2).3)。また、図中には、鹿島港の出現頻度に波高比を乗じて推定した人工島背後の未超過出現頻度も併せて示されている。波高比0.4で東京湾口(浜金谷)、波高比0.2で東京湾内(第二海堡)と同程度の静穏性を有することがわかる。表−2と併せて評価すると、人工島のみを設置した場合には人工島背後の80%以上の領域が東京湾内並、95%以上が東京湾口並の静穏度となる。また、海浜安定化対策工として離岸堤を設置した場合には90%強が東京湾内と同程度の静穏度となることがわかる。
3.2 生物の生息条件からみた静穏度
最近、海岸工学と水産工学の接点として、港湾構造物に付着する動物や生物の生息状況と外力である波浪との関係が調べられるようになってきた(例えば、小笹ら、1994)4)。また、二枚貝やアマモの生育環境を外力あるいは砂移動と関連づけて評価することが試みられるようになってきた(例えば、桑原ら、19945);中瀬ら、19936)。生物の生息条件は、構造物に付着する生物に対しては波浪が直接の外力となり、また砂浜に生息する藻場(アマモなど)や二枚貝などは底質の種類や海底砂がどのように動くかが大きな影響を及ぼす。
小笹ら(1994)4)は、瀬棚港、小名浜港、御前崎港、新潟西海岸および関西国際空港の海岸・港湾構造物に付着する動物や海藻を調べ、付着動物は年最大波に対して構造物の前面波高が2m以下の場合によく出現し、海藻は前面波高2〜3m付近でピークを持つことを報告している。付着動物からみれば人工島背後の静穏域が大きいほど良い環境となるが、海藻などの生物などの海藻からみると静穏すぎるのはよくなく、適度な静穏性が必要であることを示している。すなわち過度に静穏度を高めると海域の砂が移動できなくなって粒径の細かいシルトが堆積するようになるが、シルトの堆積は砂浜に生息する生物に悪影響を及ぼすだけでなく、水質も悪化する恐れがある。一方、外洋に面した砂浜では、常時の波浪条件(有義波高1m程度)に対してもシートフローと呼ばれる激しい砂移動を生じるが、二枚貝や藻場の生育環境としてはこのようなシートフロー状の激しい砂移動は望ましくない。したがって、シルトが堆積せず、多少の砂移動が生じるような適度な静穏度が望ましいと考えられている(例えば、中瀬ら、1993)6)。
砂の動き易さを示す指標としては、次式で表されるシールズ数が用いられる。
ψ=τ/ρ5gd=u*2/sgd (1)
ここに、ψ:シールズ数、τ:底面せん断応力、u*:底面摩擦速度、ρ:海水密度、s:砂の水中比重、g:重力加速度、d:粒径である。細砂の場合の移動限界シールズ数(それ以下では砂が移動しない)は0.11、シートブロー状の激しい砂移動の生じる限界は0.5程度と言われている。
砂の中央粒径を0.2?としてシールズ数の平面分布を計算した。有義波高が2mと4mの場合のシールズ数分布を図−4(1)、(2)に示す。年に数回発生する高波浪である4mに対して移動限界(シールズ数0.11)以下になっているところにはシルトが堆積するものと予想されるが、いずれのケースも人工島背後域には砂が移動できない領域が広がっている。また、人工島背後域外ではシールズ数0.5以上の激しい砂移動が生じていることがわかる。表−3は、砂移動が生じない領域(シールズ数ψ<0.11)、適度な砂移動を生じる領域(掃流移動と浮遊移動発生域;0.11<ψ<0.5)と激しい砂移動を生じる領域(シートフロー移動;ψ>0.5)の3つに分けて、人工島背後域に占める各々の面積比を求めた結果を示している。年数回発生する高波浪4mに対して、砂移動が生じず、シルトが堆積すると予想される領域の面積は人工島背後の海域の40〜50%、最も海生生物の生息に適していると考えられる適度な砂移動を生じる外力(シールズ数0.5以下)の面積は30%程度である。

 

 

 

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